【民法改正】不貞慰謝料の分担【不倫の慰謝料】

質問:A子は、B男(既婚者)と不倫をし、その妻X子から不貞慰謝料を請求されて、慰謝料150万円を支払いました。A子は、B男に払った慰謝料の半分(75万円)をもらいたいと請求(求償)したのですが、B男はX子から慰謝料の支払い義務を免除してもらったので、A子にお金を渡すつもりはないと拒絶しました。A子はB男に75万円を求償できるのでしょうか。
 なお、慰謝料額が適正であり、不倫についてのA子とB男の責任は半分ずつを前提とします。

1 不貞慰謝料は、不真正連帯債務です。  

 まず、不貞慰謝料は、不真正連帯債務といって、一種の連帯債務です。
 連帯債務とは、一つの債務を複数の債務者が一緒になって払う義務があるものです。
 債権者は、連帯債務者の1人を選んで、その人に全額を請求しても良いことになります。
 他方、連帯債務者1人1人から全額弁済してもらう(二重に弁済してもらう)ことはできません。
 つまり、X子は、B男ではなく、A子を選んで慰謝料全額を請求できることになります。


2 不真正連帯債務と、連帯債務者の一部に対する免除

 改正前民法では、連帯債務の場合、連帯債務者の一部に免除があれば、原則として、他の連帯債務者もその恩恵を受けて、支払うべき債務が減る規定がありました(絶対効)。
 それが、民法改正によって、連帯債務者の一部に免除があっても、原則として、他の連帯債務者の支払うべき債務は減らないという規定になりました(相対効)。
 ただし、不真正連帯債務の場合は、改正前から判例で「相対効」であるとされていましたので、債権者が、連帯債務者の一部に免除したとしても、原則として、他の債権者の支払うべき債務は減らないことになっていました。
 つまり、民法改正の影響はなく、X子がB男の慰謝料債務を免除したとしても、Xは、A子に慰謝料全額を請求できるということになります。


3 B男が免除を受けていても、A子はB男に求償できるか。

 問題1
 A子がX子に慰謝料全額を払うのは仕方ないとして、A子はB男から払った慰謝料の半分をもらう(求償する)ことはできるのでしょうか。B男は免除を理由に求償を拒めるのでしょうか。
 改正民法445条で、債権者が連帯債務者の1人に対して免除しても、他の連帯債務者は、免除を受けた連帯債務者に対して求償権を行使できるとしています。
 つまり、X子がB男に免除しても、A子はX子に全額払った慰謝料の半分を請求できることになります。

 

 問題2
 A子の求償に対して、B男が75万円を払った場合、B男は免除されたのに実質払わされたとして、X子に再求償(不当利得請求)できるでしょうか。
 B男がX子への再求償(不当利得請求)はできないと言われています。
 その理由として、X子がA子から受取った慰謝料は、連帯債務の規律に基づいて正当に取得したものであり、法律上の原因があるので不当利得ではないからとされています。


 問題3
 もし、A子が半分(75万円)だけをX子に払った場合、A子はB男に更に半分(37万5000円)を求償することはできるのでしょうか。
 改正前の判例では、A子は自己の負担分を超えた金額を求償できるとされていました。そのため、半分(75万円)を超えなければB男に請求できませんでした。
 改正後の445条では、自己の負担分を超えなくても割合に応じて求償できると規定されているので、A子は37万5000円を請求できそうです。
 ただ、一部解説を読んでいると、解釈上、改正後の民法規定は適用せず、改正前の判例を適用する可能性もあると指摘されており(LIBRA Vol.20)、決着はついていないようです。

 

4 X子が、A子がB男に求償権を行使しないようにするためにできること

 X子は、A子と示談(和解)する際に、示談書の中に、A子がB男に対する求償権を放棄するという内容の条項(求償権放棄条項)を入れておくことが考えられます。
 なお、示談書に求償権放棄条項を入れるには、当事者の合意が必要です。A子から求償権放棄を条件に慰謝料の減額を求められる可能性があります。

 

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2024年09月18日